創業60周年を契機に 三代目社長に小楠倶由が就任
創業60周年を迎えた平成18年、当社3代目社長に小楠倶由が就任、先代から続く小楠金属の堅実な企業運営姿勢を引き継ぎつつ、日本の製造業大変革時代のかじ取りを担うこととなる。
就任後の社内報インタビューで小楠倶由は「ここ5年間、年率7~10%の売上拡大をしてきており今年の3月期には100億円超の売上を達成する見込みです。 しかしその中身はスズキ、クボタの主要取引先の拡大に引っ張られて達成したことであり、今後は質の向上(システム、レベル)を図っていかなければなりません。(中略)大なり小なり会社間の統廃合化の加速が進み、力のない会社は吸収又は整理消滅されてしまうだろうと思います。いわゆる勝ち組、負け組がはっきりしていく、当社は何としても前者にならなければなりません」と気を引き締めた。翌19年には当社として初の売上100億円の大台を突破、現体制となる小楠金属が動き始めた。
新事務所棟の完成 事務部門のワンフロア化を実現
平成18年には西工場の西側へ新事務所棟(1300m2)が完成した。「明るい職場にしたい、会社が楽しいと思う社員で満ちている」
これは目指す企業風土を尋ねられた際の現社長、小楠倶由の言葉である。西工場の完成によって製品の物流は大幅に改善されたが、事務部門は工場の各所にそれぞれ配置され、間接部門の効率化が課題となっていた。新事務所棟は1階を技術工場とし治具製作や製品試作を実施、2階には各部6部門を集結、コミュニケーションが容易い事務所の完成によりワンフロア化での顔が見える仕事が実現した。
事務部門のワンフロア化を実現した新事務所棟2階
坪井工場の完成でナックルステアリングの
大量生産に対応
国内自動車メーカーの多くが過去最高益を達成した平成19年、当社も初の売上100億円を突破、大型のトランスファーマシンを有効活用し、ナックルステアリングの大量生産に対応するために新工場の建設に踏み切った。技術先端型工場として認可された3600㎡の新工場は「坪井工場」と名付けられ、徹底した省人化と無駄のない物流、省エネ化をコンセプトに設計、平成20年に完成した。メインであるトランスファーマシンは部品交換のしやすさを重視、IN (素材投入)とOUT(完成)の物流ポイントが同位置、バリ取りの手作業をロボット化等、「楽で、早く、良いものを安く造る」ことが可能な最先端の工場が稼働し始めた。
オグスタイランドで生産される「カムシャフト」。
オグスタイランドを設立し 海外進出へ第一歩を踏み出す
平成20年に発生したリーマンショックは国内の製造業にも大きな衝撃をもたらした。当社でも 単月売上はほぼ半減と創業以来初めての大幅な落ち込みとなった。結果的には3年後の平成23年、不況で稼働しなくなった国内の余剰設備を活用してタイ王国、チョンブリにオグスタイランドを稼働させることとなるが、大きな岐路となった「海外進出」を決断した当社社長、小楠倶由はオグスタイランドオープニングセレモニーで以下のように振り返っている。
「2年前の5月、タイで操業している日系の会社をこの目で確認し、我々製造業のグローバル展開が予想以上にスピードを加速させていることにショックを受けた。リーマンショック後の世界経済の流れが激変している。タイ進出のビジネスプランを早速検討した」
逆転の発想だった。国内で機械が余っていれば海外へ投資して工場を建てて稼働すればいい。
平成22年に設立されたオグスタイランドは翌平成23年に稼働を開始、当初はスズキ、クボタなど日本国内での取引先の海外工場が主要な取引先であったが、現地での技術力の評判が広まり商談案件は急増していった。精密で多品種少量生産に対応できる小楠金属の技術力に現地メーカー各社が関心を示し始めた。
平成25年にはオグスタイランド第2工場を現地に建設、海外現地生産により国際的な価格競争力を得たオグスタイランドの製品はアセアンという巨大マーケットを相手に大きな可能性を秘めている。
「マルタス」「15tブローチ盤」の導入で
さらなる高難度加工に対応
平成23年、オグスタイランド設立当初、その稼働率を上げるために多角的な営業活動が展開されていた。結果、取引先からは異形状加工や大型部品加工など高難度で品質要求の高い加工依頼が増え始めた。代表的な製品が「カムシャフト」である。カムシャフトのカム部分は特殊なカムプロフィール形状で設計される。加工にはキー溝部とカム部ミーリング部の位置精度が必要となり当社保有設備では品質的に限界があった。そうした背景の中、知能型複合加工機 「マルタス」の導入を決定した。キー溝加工と ミーリングを同時にこなすマルタスでの加工は、 カムシャフトの品質要求をクリアするだけでなく、さらなる高難度な新規製品の加工にも展望が広がる。同時期、国内工場ではヤンマー(株)より 農業機械用足回り部品を受注、旋削工程とミーリング工程をワンチャックで複合加工することにより穴位置精度や表面粗さなどに高品質な加工精度を実現、工程集約とリードタイムの短縮も可能としている。
この足回り部品ではもう一つ新たな技術が導入された。ロングストローク仕様の15tブローチ加工である。平成27年に導入された「15tブローチ盤」は当社従来設備では荒、仕上げと2回抜きで対応せざるを得なかった大径のブローチ加工やモジュールの大きい内径スプラインの1回抜きを実現、品質精度、生産性向上にも貢献する。当社のノウハウと最新設備の融合により小楠金属の加工技術はさらなる高みを目指していく。
知能型複合加工機「マルタス」
QCで2度の「石川馨賞」を受賞、 評価された小楠金属のカイゼン活動
昭和46年に発足した当社のQC活動は成熟期をむかえ、取引先主催の発表大会でも数々の賞を獲得した。なかでも永年のQC活動の集大成といえたのが平成19年、製造部2課三三七拍子サークルの「ブラケットマシニング工程における動作ロスの削減」、続く平成21年、同課AーZサークルの「54G21ブラケットの組立工程における品質不安要素の削減」で獲得した2度の「石川馨賞」であった。石川馨氏(1915~89) は日本のQC活動の生みの親、育ての親であり QC表彰では権威ある賞とされる。小楠金属の改善活動が国内でもトップレベルで対外的にも高く評価されていることがうかがえる。
石川馨賞の表彰盾
石川馨氏は日本の品質管理の父と賞され、QC活動の生みの親。
日本における品質管理、特にTQC (Total Quality Control. 全社的品質管理)の先駆的指導者の一人である。
事業領域の拡大を目指し新規取引先を開拓
日本の製造業の海外生産比率は昭和60年度に3.0%であったが平成12年度は12.4%に達し平成24年には15%を超えてきている(経済産業省-通商白書2014より) 。オグスタイランドの稼働により海外での競争力を得た当社であったが、国内事業に目を向けると大手メーカーの海外進出による日本の製造業空洞化の影響を見過ごせる状況ではなかった。部品メーカー各社は国内での生き残りをかけて熾烈な受注競争を繰り広げていた。昭和50年代から模索を続けた、スズキ㈱、㈱クボタに次ぐ「第三の柱」の必要性が大きく迫られていた。平成20年代に入ると当社は創業以来培った技術を糧に、複数の新規取引先から多くの新製品を受注していく。
平成20年にはダイキン・ザウアーダンフォス㈱と取引を開始、農業機械・建設機械向けの油圧機器部品を受注、平成26年にはヤンマー㈱より多種のギヤ系部品、鋳造素材をはじめとする異形部品を受注した。取引は始まったばかりであるが、ヤンマー㈱は日本の農業機械大手メーカーであり、当社の長年の農業機械部品製造の経験と実績によって生み出される品質面、価格面での優位性を生かし、今後の取引拡大がおおいに期待されるところである。
創業70周年次代へ踏み出すNEXTVALUE
小楠金属工業所は平成28年、創業70周年を迎える。日本の戦後とともに当社は歴史を重ねてきたといっても過言ではない。高度経済成長を経て、社会もモータリゼーションも成熟期に入り、国内向けの自動車部品を経営の柱の一つにしてきた当社は、いま大きな転換点に立っている。今後も、自動車、農業機械向けの部品生産を二本柱としつつも、新しい分野の開拓が求められている。そのビジョンの具体例が自社ブランド製品の開発販売であり、オグスタイランドの業績アップである。むろん、国内での営業強化も最重点課題の一つである。
そうした成長戦略を支えるには、柔軟な発想力と果敢な挑戦力を持った"人材育成"がすべて大前提となる。少子高齢化時代に突入した現在、人々の価値観も大きく変わり、既存イメージにとらわれた発想では新しいマーケットへの対応は困難となる。
生産、販売の両面でこれからの小楠金属を担う人材を育て上げ、新しいステージへの飛翔を目指し大胆に実行すること。そこから創業70周年を超え次代を目指す小楠金属の力強い「N E X T V A L U E」が誕生する。